盲導犬を蹴る盲導犬ユーザー
2017年10月8日にFacebookへ投稿されていた衝撃的な動画。
その動画には視覚障がい者の男性がパートナーであるはずの盲導犬を足で蹴り、盲導犬が怯える様子が映されていました。
瞬く間にこの動画はSNSで拡散されユーザーを特定。5日後の10月13日に盲導犬は所属の公益財団法人アイメイト協会によって保護されました。アイメイト協会が録画した保護後の盲導犬の動画には、元気そうではありますが、よく見ると足を怪我しているような様子が映っていました。
この盲導犬が何年間このユーザーの元にいたのか不明ですが、蹴られる時に自然と体を庇う様子から常時暴力を受けてきたことが伺え、ずっとこれに耐えてきたことを思うと心苦しくて涙が出てきます。
世間では盲導犬はかわいそうという声が多く聞かれます。私の周りでも、盲導犬は我慢ばかりしてかわいそう、だから盲導犬を応援できない、そして今回の出来事で盲導犬は廃止するべき、という声も聞こえてきます。
これについて考えていると、頭がぐるぐる。では、危険が伴う警察犬やガラスや瓦礫の中を歩き生存者を探す救助犬は良いのか、ムチで叩かれ調教される競走馬や猿回しの猿、沖縄でたくさんの人が乗る水車を何往復もさせられる水牛、言うことを聞かなければ鋭い刃先を頭に何度も刺されながら、人を乗せジャングルを歩かされる観光用の象もいて、お肉やお魚など命をいただくのは良いのか。そして私が飼っている犬は果たして幸せなのか、、、。何が悪くて何が良いのか、考えれば考えるほど自分でもわからなくなります。
頭を盲導犬に戻して考えると、ペットとして飼われている犬に比べて我慢を強いられることが多いのは事実。「かわいそうだから応援できない。」、という気持ちも私も大の犬好きなので理解できますが、では盲導犬を廃止して、私が、または盲導犬の廃止を求める人たちが盲導犬の代わりになって視覚障がい者にいつも付き添い歩けるのか。1日、2日、時々なら予定を調整してできるかもしれませんが、毎日、何年も、一生、できるのか。そして実際に「盲導犬のおかげで、行きたい場所に行くことができ、人生が楽しくなった」という、盲導犬を必要としている視覚障がい者の方たちがいる、という点から、盲導犬がかわいそうと目を背けるのではなく、盲導犬が必要な現時点では、盲導犬に感謝してできることをしていくことが私が盲導犬を応援する理由です。それは、もしかしたら複雑な「ごめんね」という気持ちがどこかにあるからなのかもしれません。
本来、人間が人間を支えるべきところを、盲導犬が支えてくれていることは事実です。友達や家族であっても常に付き添い出かけることは難しいですし、視覚障がい者の方にとって「迷惑かな、、、」と遠慮して言えず、必要最低限の外出になってしまうでしょう。現に白杖での外出が不安な視覚障がいを持つ友人は、ガイドヘルパーさんに付き添いをお願いできる時以外はあまり出かけない、と言います。盲導犬は視覚障がい者の「出かけたい時に出かけたい場所へ」という願いを目となり支えている存在で、人間ができないことを補いがんばってくれています。しかし、日本はまだ盲導犬はじめ補助犬に対する理解が十分ではなく、お店への入店拒否や盲導犬ユーザーの線路からの転落事故など悲しい出来事が絶えません。犬は人間の気持ちを感じ取る生き物なので、道で迷ったり、少し休みたいな、と入ったカフェで入店を拒否されたり、人の多い駅のホームで迷ったりでユーザーさんの心が不安になれば、盲導犬も不安になります。
私には大きなことはできませんが、電車のホームや信号など危険が伴う場所や、カフェやスーパーなど入店拒否をされていないか、などを気にして見守り、必要な時にはすぐに声をかけることが私ができる盲導犬の応援です。
実際に、全ての盲導犬が楽しくお仕事ができているかはわかりません。もしかしたら、公園でボール遊びをしたり、じゃれあう他の犬を見て、僕もあんな風に生きたかった、と思っている子もいるかもしれません。ただ、今まで盲導犬に出会ってきた中で、ユーザーさんと楽しく一緒に歩いている子たちも見てきました。知人の男性のユーザーさんは、自身の盲導犬をそれはそれは愛しそうに大事にケアされています。「この子はあと2年で引退。そのことを思うと悲しいですが、でも僕の元にいてはこの子は気が休まらないだろうから、大事にケアしてくれる新しい家族のもとゆっくり過ごして欲しいという気持ちもあります。」と、スヤスヤ眠る盲導犬の頭をなでながら、「ありがとうね」と声をかけていたユーザーさんもいます。駅の改札までご一緒した後、強い絆で結ばれた1人と1頭の背中を見送ると、なんだか温かな丸い空気に包まれているように見えました。きっとお互いへの愛、出会って幸せだよ、ありがとう、という空気だったと思います。
今回SNSの動画で見た、蹴り返してやりたい最悪なユーザーばかりではなく、また、可哀そうな盲導犬ばかりではないのです。ですので、今回の件で、全ての盲導犬がかわいそう、と思われてしまうのは、自分の目となり支えてくれる盲導犬に感謝し、パートナーとして大事にしている盲導犬ユーザーの方たちも誤解されてしまう悲しい出来事だったと思います。
一方で、正直にぶっちゃけますと、美談ばかりが伝えられる盲導犬育成については、私自身、心から応援できない部分があることも事実です。盲導犬協会は、盲導犬を守るための貸与基準が低くユーザーの利便性を第一に優先し、盲導犬の命という尊厳を軽んじているように感じることがあります。
具体的な1例を言うと、中部盲導犬協会は盲導犬の排泄の回数をコントロールしたり、排泄の世話の負担を軽減するために、食事は1日1回で良いとユーザーに指導しています。1日ユーザーに寄り添い、待ちに待った1日1回のごはんの時間になると、空腹の盲導犬は一気に食べます。急いで食べることで空気も一緒に吸い込みますので、ラブラドールなどの大型犬は胃拡張や腸捻転などになりやすく死に至ることもあります。そういうリスクがあることを知りつつも、その改善を協会に要請しても改善に至りませんし、1回のみ与えているユーザーにリスクを伝えたことがありますが、盲導犬協会からそのように指導を受けているので問題はないと言います。
盲導犬の命を大事に思うならば、盲導犬の体への負担を考えた管理指導をするべきですし、ユーザー自身も例えそのように指導を受けたとしても、盲導犬を自分の目となり寄り添ってくれる大事なパートナーと思うのであれば、自身の都合を優先するのではなく犬に負担がない方法を選ぶのではないでしょうか。1日空腹で歩き、ようやく夜1回ご飯をもらう盲導犬。この子は本当に幸せなのでしょうか。
もしかしたら、盲導犬からすると「私は盲導犬に選ばれて幸せ。こんな意見、余計なお世話よ。」と思っているかもしれません。ただ、私自身、小さいころから犬と兄弟のように育ってきた根っからの犬好きとして、盲導犬として選ばれた犬たちが、「我慢を強いられた犬」ではなく、楽しく幸せに盲導犬として活躍できるように見守ること、必要であれば声を上げられない犬に変わって声を上げていくことが大事だと思っています。
今回の蹴られる様子がSNSに投稿されていなければ、美談ばかりが伝えられ批判はご法度の盲導犬事業について、ここまで多くの人が声をあげることはなかったでしょう。
事実、アイメイト協会はこの盲導犬が所属の犬であったことが判明した後もすぐに盲導犬を保護せず、ユーザーの仕事が休みの日まで面談を待つという判断をしました。しかしこの動画を見た人たちが激怒し、アイメイト協会に苦情が殺到したことで、面談日まで待たずしてユーザーから盲導犬を保護しました。SNSは時に人を追い込む恐いツールでもありますが、一方で世論を反映する役割も果たします。虐待を受けている盲導犬がいてもすぐに保護しなかったアイメイト協会。SNSによる苦情がなければ、ユーザーの仕事の事情を優先し、盲導犬の尊厳は後回し。それが浮き彫りになりました。
盲導犬を応援する人の心を甘く考えていたのではないでしょうか。何にしても盲導犬が1日でも早く暴力をふるわれる日々から保護されて本当によかったです。
盲導犬の背中にある黄色や赤色のリュックのようなポーチには盲導犬を育てた所属協会の名前、盲導犬を特定する認定番号などが記されています。今回のように盲導犬への暴力を見たり、不安に思うことがある場合に、記された所属協会、または市町村の福祉課か盲導犬を管轄する厚生労働省の担当課に連絡ができるようにそれらが示されています。
厚生労働省担当課
社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室
代表電話:03-5253-1111
これは、児童虐待、いじめ、家庭内暴力、など周りの見守りで防げることと同じです。声を上げられず不適切に扱われている存在がいなくなるように見守ること、必要な時には周りが声を上げていくことが大事だと今回改めて強く思いました。
色々な思いがこみ上げた今回の許しがたい出来事ですが、やはり私のできることは1つ。今もがんばる盲導犬がいるのだから、盲導犬とユーザーを見守り、できるアクションを取っていく。もしこのブログを読んでくださった方もユーザーと盲導犬を見かけたときには、ぜひご一緒にお願いいたします。
・駅やホームでの声掛け「大丈夫ですか、ご一緒しましょうか」
・信号、横断歩道、線路などでの声掛け「青ですよ、赤ですよ、危ないですよ、今進めますよ」
・危ないときの声掛け「盲導犬ストップ!」。
・入店拒否やタクシーなど乗車拒否をされている時。「補助犬の入店・乗車は、法律(身体障碍者補助犬法)で認められていますよ」と店舗などへの声掛け。
・盲導犬が足をひきずっていたり、気になる点がある場合。「足から血が出ていますよ、足をびっこひいていますよ、服が脱げていますよ」。ユーザーさんが見えず気づいていない場合がある。
これらは、盲導犬ユーザーの友人たちも躊躇せずに教えて欲しいと話していました。
盲導犬は導いてくれる道具ではなく大切な命。
ユーザーさんと共に安全に幸せに歩めるように、皆で見守っていけたらいいですね。
今回は犬好きらしく盲導犬寄りの素直な心の中を書かせていただきました。長文をお読みいただき、ありがとうございました(^^)